華やかな夜会で、クラリッサはピーターや若き日の友人サリーとの再会を喜びながらも、一度も出会ったことのない青年セプティマスの死を知り衝撃を受ける。セプティマスは戦場で心に深い傷を負い、夕刻に自殺をとげたという。クラリッサは彼の生き方の純粋さに共感し、さらに老いと死の恐れをこえて、人生を美しいものとして 受け入れていく...。
クラリッサが朝、本屋で見かけ、自室で思い浮かべる言葉「もはや灼熱の太陽を恐れるな。激しい冬の嵐を恐れるな」は、シェイクスピア作『シムベリン』の第四幕第二場からの引用で、グィディーリアスが仮死の状態にある妹イモージェンを死んだと思い込み、捧げる挽歌 −死者の安らぎと平安を願う− である。この映画全体の基調であり、リズムになっている。(Mrs Dalloway の原作では fear no more のフレーズが場所を変え5回繰り返される。)
Fear no more the heat of the sun,
−Shakespeare Cymbeline IV. ii
クラリッサの住むウェストミンスター地区には国会議事堂とビッグ・ベンがある。その鐘の音が15分おきに聞こえてくる。メロディーで時刻がわかる。ドラマの効果音やリズムのみならず、「時間」のシンボル −冷酷、無慈悲な時−「鉛の輪が空中に溶けていった」(The leaden circles desolved in the air.) 現在が過去に葬られ、瞬間が空間と溶けあい、人は老い、無に帰していく...それに対し、瞬間の輝きと死との合一...「死は挑戦であり....死には抱擁がある」(Death was defiance....There was an embrace in death.)というクラリッサの「死の美学」になるのである。この小説は草稿時 The Hours (時間)と題されていた。
花を買いにでかけるクラリッサ。セント・ジェームス公園を抜けピカデリー・サーカスからボンド・ストリートへ。意識はいつのまにかブアトンでの青春の日々、過去の思い出が交錯する。ロンドンの都市空間は、登場人物たちの意識と行動を包み込む大きな器だ。ハッチャーズ書店、フォートナム & メイソンといった王室御用達の老舗からA&N、トラファルガー・スクェアー、ストランド街...2階建てバスでのロンドン見物と次々に我々を楽しませてくれる...かと思えば救急車がけたたましく夜の都会を駆け抜けていく。
セプティマスとクラリッサは最初から最後まで出会うことはない。だが「死の美学」を分かちあい、自己投影できる相手だと直感する。二人に接点があるとすれば、セプティマスはクラリッサの夜会に招待された精神科医師ウィリアム・ブラッドショーの患者であるということと、ドラマの狂言まわし役のピーターがリージェント公園でセプティマス夫妻とすれ違うという間接性のみ。ピーターが午睡をし、セプティマスが狂気の幻想に陥る。意識下の深層心理を掘り下げた表現にウルフは言葉で挑んだのだが、それを映画はどう処理し、何処まで迫れるかも興味あるところ。登場人物の足取りを地図で追いながら、ロンドン散策してみるのも楽しい。
ロンドンが様々な人々を雑多に無秩序に抱え込む器だとすれば、パーティは人々の集まりに秩序と調和を与える空間だ。大都市では孤独で疎外された存在にすぎない人々も、パーティでは他の人と共感し溶け合う瞬間を体験できる。(この意味でパーティはウルフの他の作品でも重要な意味をもつ。)クラリッサは華やかで、統一ある「場」を創造し、人々を融和させることを一種の神聖な儀式、捧げ物(offering)だと考えている。そこにセプティマスの「死」の知らせが舞い込んでくる。「死」と「老い」の恐怖を解き放ち、過去と現在が一つになったとき、啓示の瞬間(the moment of being)がおとずれる。
![[Gordon's VW]](../../IMG/gordon.jpg)
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■VWWデジタル・ブック
清水 一嘉 著 『ホガース・プレス − ヴァージニア & レナード』
ウルフ夫妻の日常生活を通してヴァージニアの素顔、もう一つの側面をご紹介します。
● ダロウェイ夫人 「人生、ロンドン、6月のこの瞬間」 丹治 愛
| 原作 | .........・ | ヴァージニア・ウルフ | |
| 監督 | .........・ | マルレーン・ゴリス | |
| 脚本 | .........・ | アイリーン・アトキンス | |
| 撮影監督 | .........・ | スー・ギブソン | |
| 編集 | .........・ | ミヒャエル・ライヒヴァイン | |
| 制作総指揮 | .........・ | クリス・J・ボール | |
| ウイリアム・タイラー | |||
| サイモン・カーティス | |||
| ビル・シェパード | |||
| 制作 | .........・ | リサ・カテセラス・パレ | |
| ステファン・ベイリー | |||
| 共同制作 | .........・ | ハンス・デ・ウェールス | |
| 制作補 | .........・ | ホール・フリフト | |
| キャスティング | .........・ | セレスティア・フォックス | |
| 衣装 | .........・ | ジュディー・ぺッパー・ダイン | |
| 美術監督 | .........・ | デイヴィッド・リチェンズ | |
| 音楽 | .........・ | イロナ・セカス | |
| クラリッサ・ダロウェイ夫人 | .........・ | ヴァネッサ・レッドグレイブ | |
| 若きクラリッサ | .........・ | ナターシャ・マッケルホーン | |
| セプティマス・ウォレン・スミス | .........・ | ルパート・グレイヴズ | |
| ピーター・ウォルシュ | .........・ | マイケル・キッチン | |
| 若きピーター | .........・ | アラン・コックス | |
| ロセター卿(サリー・シートン) | .........・ | サラ・バデル | |
| 若きサリー | .........・ | リナ・ヘディー | |
| ルクレティア・ウォレンスミス | .........・ | アメリア・ブルモア | |
| ヒュー・ウィットブレット | .........・ | オリバー・フォード・ディヴィース | |
| 若きヒュー | .........・ | ハル・クラッテンデン | |
| エリザベス・ダロウェイ | .........・ | ケィティー・カー | |
| ミス・キルマン | .........・ | セリナ・カデル | |
| リチャード・ダロウェイ | .........・ | ジョン・スタンディング | |
| 若きリチャード | .........・ | ロバート・ポータル | |
| ウィリアム・ブラッドショー卿 | .........・ | ロバート・ハーディー | |
| ブルートン卿夫人 | .........・ | マーガレット・タイザック | |
| 1997年イギリス・オランダ合作/英語/カラー/ヴィスタサイズ1:1.85/1時間37分 ドルビーステレオ/字幕・戸田奈津子 | |||
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